フランスでは自動車は左ハンドル右通行です。出発前はこれが一番むずかしい障害だろうなと思っていた。
が、それは些細な問題に過ぎなかった。そんなもの30分で慣れる。
フランスドライブ旅行で一番難関だったのは、交通法規と慣行でした。いうなれば、道路の雰囲気。
フランスは、高度な自動車依存社会でした。パリを離れるともう公共の交通機関は発達しておらず、バス路線もほとんどないし、鉄道路線も非常に少ない。バスもバス停もほぼ見ませんでしたし、電車鉄道も見かけない。踏切を通過したこともない。どれもパリ周辺以外では、の話です。
道路網はきわめて発達しており、大半の主要都市へは高速道路と高速みたいな一般道が通じている。移動の平均速度が非常に高かった。
なのに、パリ周辺でも東京都内ほど車は走ってない。ましてやパリ以外の地域では走っている自動車がすごく少ないのです。これはなぜだろうか。
それは、大前提としてフランスでは「下手っぴは運転できない」からです。
日本を走るドライバーの、6割から7割はフランスでの運転に耐えられないと思う。職業ドライバーも含めて、です。
まず、都会田舎の区別なく、速度が高い。
日本で100kmの道はフランスじゃ130km。
70kmの道は100km。40kmの道は70kmで走っています。それでも制限速度内です。一般道でも制限速度以下で走っている車は99%いません。
逆に田舎や都市の細街路では、30制限。それだけじゃなく、大きな路面の凸部(スピードバンプ)がひんぱんに設けられ、突き上げられる。シケインも多数。しっかり路面と標識を見て走らないと車が飛び上がるか、足回りを壊す。
速度が高いので、注意散漫は致命的です。
もし130kmで事故を起こしたら、五体満足では済まない。事故は一件だけ遭遇しましたが、車がバラバラでした。
それにもまして大きな違いは、日本では可能な「いくら制限速度が高いったって自分はゆっくり走るつもりだから」は通用しません。そんな車いません。高速道路は広く走りやすいのですが、130kmで走る必要がある。日本と違い、100kmの道を90kmで走っている車はほとんどいません。
フランスにおける制限速度とは、「この速度で走れ」です。「この速度以下で走れ」ではありません。
一番困ったのが、パリ周辺部のICの複雑怪奇さ、一般道の交差点の複雑さです。
Googleマップで、どこか任意でパリ近くのICをアップにしてみてほしい。まるで糸がこんがらかったようなICばかりです。
初日は15回以上、4日目でも2,3回、道を間違えた。おおきなタイムロスでした。ここを間違えずに事故らずに走るには、たかい集中力が必要です。地元民が間違えずに走ってるのは、ひとえに慣れているから、知っているからでしょうな。
道路交通法の基本的構造というか、根底にある哲学が日本と違うんですよ。
日本の道は、「できるだけゆっくり走ってくれ」という根本思想で作られています。が、フランスは「可能な限り速く走れ」です。
日本で運転免許は、できるだけ広く大勢に与え、多くの人に自動車を利用してほしい、という方針で交付されています。が、フランスは明らかに違う。この道を走る資格を、選抜された優秀なドライバーに与える方針。だから、絶対的に交通量が少ない。車社会なのに、日本の半数も車が走ってない印象。
調べてみると、フランスの運転免許取得は難しいので有名だそうです。
自動車教習所は存在せず、日本で昔あった二輪の限定解除に近い方法で試験が行われる。しかも、いきなり路上です。この条件を日本で当てはめたらおそらく免許取れる人は20%いるかどうかじゃないでしょうか。
実技講習は過酷なもので、教官が見込みなし、と判断したら首になる。日本みたいにできるだけ免許とらせてあげよう、という温情は存在せず、教官が合格できそうだと判断するまで路上教習が続く。フランスではドライバーは選びぬかれたエリートなのです。それは後述するように、現地で走っていて実感する。
感心したのは、フランスのドライバーの意識の高さ、上手さです。上手さというのはテクニックではなくて、判断力です。上で書いた通り、フランスのドライバーは過酷な試験をくぐり抜けたエリートなのです。
日本でよく見かけるというか過半数の、ボケっと漫然と走っているドライバーがいない。
たとえば、車線の合流。
日本では車間を詰めて入れさせない、意地悪をする人が非常に多く見られる。が、フランスじゃ全くゼロなのです。
ウインカーをつければ、確実に合流できる。ゆずってくれるのです。100%です。彼らはかなり早い段階から合流を予測し、行動に移している。
高速道路でも同じです。
追い越し車線を遅く走る車はまったくいない。ゼロです。車線変更、追い越し、いずれも確実な安全なタイミングで皆こなしており、安全かつスムーズそのもの。彼らの先を読んだ的確な判断には幾度も感心した。車間距離を詰めてくるバカもいない。何手も先を読んで車間が詰まる前に行動を起こしている。
一言で言って、めちゃくちゃ走りやすい。勉強になった。
一時停止で止まらない車もゼロだし、強引に左折(日本では右折)してくる車もゼロ。脇道から飛び出してくる車もゼロ。横断歩道で歩行者が待っているのに突っ込む車もゼロです。確実に歩行者にゆずっている。
これは単に紳士的とか言う以前に、判断が早く正確なのです。
日本では、なにをやらかすかわからないバカに路上でしばしば遭遇する。しかし、フランスでは自分よりずっとうまいドライバーに囲まれていると感じる。自分さえ馬鹿げたことをしでかさなければ、安全なんです。
僕は二輪四輪40年80万キロ、日本国内をくまなく走ってきて、自分はうまく運転できると信じていました。自己評価が高かった。
だが、それがフランスで打ち砕かれました。運転上手いを自称するには10年早かった。僕はフランスでは初日は下の中くらい、最終日には中の中くらいのドライバーでした。
これからフランスをレンタカーでドライブしてみたい、という方へ言えることは。
もし自分の中に「狭い道はちょっと苦手」「運転するのあまり好きじゃない」「知らない道を走るのは不安」「スピード出すの怖い」という気持ちが少しでもあるなら、絶対フランスで運転しないでください。事故起こします。
また、自分の性格に「柔軟性に欠ける」「計画通り進まないとイライラする」「パニクりやすい」と感じたことがあるなら、フランスでは運転しないでください。フランスドライブ旅行でもっとも必要なのは、機に臨んで変に応ずる気構えです。
奥さんを予備のドライバーに、と考えていたのがまったく無意味でした。奥さんの国際免許証はまるで無駄だった。ぜったい運転できないと思う。
常に全集中で運転する。
それができるなら、フランスで車・バイクで走り回ってほしい。最高のドライブ・ツーリングが待っている国です。